放射線量と発がんの関係、
発がんの仕組み
1. どのくらい被ばくするとがんになるのですか?
放射線にはこれ以下だったらがんにならないという境界の線量(「しきい値」という)はありませんから、放射線に安全量はないといえます。そして放射線のリスクは蓄積しますから、被ばく線量を全て足し算して危険性を計算します。
線量と発がん数との関係は図のようになり、1ミリシーベルトを1万人が被ばくするとその内の1人ががんになり、10ミリシーベルトだと10人というようにがんは線量に比例して増加します。これをしきい値なし直線(LNT)モデルといい、国際放射線防護委員会(ICRP)もこれに基づいて放射線防護をすべきであると勧告しています。
ICRPは公衆の被ばく線量限度を年間1ミリシーベルトと決め、通常はそれ以上の被ばくは容認できないとしています。しかし東京電力福島第一原子力発電所事故後、福島県では年間20ミリシーベルトまでは安全として、避難した住民を帰還させる政策をとっています。
放射線被ばくによる甲状腺がんの発症
実際に被ばくした人がどのくらい甲状腺がんになるのか調べたデータはLNTモデルに一致しています。甲状腺に50ミリシーベルト浴びると被ばくしなかった人に比較して1.55倍甲状腺がんが増えます。発がん率は線量が増えるに従って直線的に増加することもわかります。
2. 放射線の量、1ミリシーベルトの被ばくとは?
放射線を1ミリシーベルト被ばくするということは、細胞の核に平均して放射線が1本通ることを意味します。5ミリシーベルトならば5本です。細胞の中心に位置する核の中には身体の設計図であるDNAが入っています。DNAは下の図のように2本の鎖が向かい合った二重螺旋構造をしています。鎖から内側に向かって出ているのはアデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)という塩基で、AはTと(A:T)、GはCと(G:C)しか対を作りません。その塩基対の並び方によって作られるタンパク質が決まります。放射線はこのDNAに傷をつけます。
3. 放射線によるDNA損傷から発がんへ
放射線のエネルギーはDNAを構成している原子同士の結びつき(化学結合)のエネルギーに比べて15,000~20,000倍にもなりますから、当たれば原子の結合は簡単に切れてしまい(直接作用)その周辺も損傷されます。放射線の当たり方によってDNAの両方の鎖が切れる場合(二本鎖切断)と片方の鎖しか切れない場合(一本鎖切断)があります。放射線はDNAに直接当たらず、細胞の中にある水を電離して活性酸素を作り、それが間接的にDNAを傷付けることもあります(間接作用)。
一本鎖切断の修復
例えば図のようにCが傷ついて切り取られた場合、相手方の鎖にあるのはGで、それと対を作れるのはCしかありませんので、必ずその場所にはCが入り、傷は正しくなおります。DNAには自然にも毎日傷ができますが、その大部分はこのように片方の鎖の傷で、正しくなおすことができるものです。
二本鎖切断の運命
しかし、2本共に傷がついた場合は鋳型になる相手がいません。その傷の運命は図のように3つに分かれます。
- 細胞が傷を治すことができない場合は細胞分裂ができなくなり、細胞の老化ないしはアポトーシス(細胞の自殺)になります。高線量被ばくの時にはこれが起きやすくなり、脱毛や紫斑などの急性障害がおきます。
- 切れた端同士をつなげる場合、間にあった塩基が抜けてしまうため塩基の配列が変わって、ここに変異が起き、発がんに繋がることがあります。
- 人は両親から同じ遺伝子を1本ずつもらっていますので、傷ついていない方の遺伝子を鋳型にして正しく傷を治す場合もあり、この時は正常に戻ります。
どの運命をたどるかは被ばく線量や被ばくしたときに細胞がどのような状態にあるかで決まります。正常に戻るチャンスは変異を起こすチャンスよりも少ないと考えられています。
4. 胎児、子どもは大人よりも放射線に弱い
胎児や子どもは細胞分裂が盛んなので、放射線によるDNA損傷が起きやすく従って図のようにがんも発症しやすくなります。
福島県の帰還基準として決められた年間20ミリシーベルトという線量は放射線を扱う作業者の年間の線量限度です。作業者が働く放射線管理区域は飲食も寝泊まりもできませんし18歳未満は立ち入り禁止です。年間20ミリシーベルト帰還政策は管理区域と同程度の地域で妊婦、乳幼児、小児など放射線に弱い人達を含めて日常生活をしても安全だという政策です。この政策を撤回して欲しいと訴訟を起こしている人たちもいます。
作成 : 2020年10月 最終更新 : 2020年12月